2021-09-20

よい絵とは何か?






わからない。

変化の激しい時を生きると、同じ作品も違って見えてくる。




私自身を思い返すと、東山魁夷作品がそうであったりする。


小さな頃から美術館などで、東山作品を見続ける中、以前の私は後期作品のような絶妙な図の省略と、岩絵具や箔といった素材の積み上げによって、実作品にしか出ないどこまでも深みのある東山作品が大好きで、そういった作品に私は魅かれていた。

この感覚は、徳岡神泉の後期作品や、マーク・ロスコ、ジェームズ・タレルに私が魅かれる感覚と近い。今そこにある実作品との空間や「いまここ」が感じられる、他メディアにはなしえない表現が昔から大好きな、私の癖なのかもしれない。



ただそんな私の見方が、東日本大震災ということをきっかけに変化した。


それまで興味のなかった東山魁夷の初期代表作《道》という作品が、私にとってなんとも魅力的に見えてきたのだ。






《道》という作品は、東山作品の中でも、比較的初期の作品で、ただその先へとつらなる道が描かれている。

大きく道だけが描かれた画面は、図的には後期作品へと通じる省略の美学を感じるが、支持体は絹を使いつつもそれなりの厚塗りで、岩絵具の積み上げ方も、後期作品にあるような神がかった色感と技術力が私には感じられない作品であった。完全に私の趣味の範囲外の作品であった。




《道》が描かれたのは1950年。

日本が戦争に負け、GHQの統治下に置かれていた非常に不安定な時代である。





時は経て2011年。

あの震災後、私は改めて《道》を見た。

涙がこみ上げた。


1950年の不安な日々、人々はこれを見たのか?と、私は思いを新たにした。

このコロナ渦、《道》はますます光り輝く。






よい絵とは何か?

ますますわからない。