2018-05-06

小さな頃


今回の作品では、出来高の棒グラフを建築の巨匠たちの作品で、時系列を表現した。
すると描きながら、私の小さな頃の記憶が様々に蘇る不思議な感覚があった。

私が幼少期、生まれ育ったのは、渋谷区富ヶ谷というところで、最寄駅でよく使っていたのは、小田急線の代々木上原という駅だ。

富ヶ谷は、新宿や渋谷と近いといっても住宅街が主であった。私の育った周辺には昔ながらの商店街が広がり、近くに訪日外国人家族がよく住んでいた。

最寄駅の代々木上原のホームは、いまも昔も見晴らしが良く、そこから眺める3kmほど先の新宿高層ビル群が、幼い頃から、私は大好きだった。

その頃、実際によく家族で訪ねていたのは、新宿NSビルや住友三角ビルだった。
しかし実際に食事などで、家族と高層ビルを訪ねる経験よりも、私にとって新宿の高層ビルは、代々木上原のホームや、富ヶ谷の高台など、少し外から眺めるものといったイメージが強い。

また建築家・槇文彦の代表作である代官山にあるヒルサイドテラスC棟を今回描いたが、その時はクリスマス飾りを幼少期に買いに行った思い出が、まざまざと蘇ってきた。
その頃…といっても、1980年代後半、輸入雑貨を扱っている店はまだまだ珍しい存在だった。その中でヒルサイドテラスには、輸入雑貨を扱っている店が多くあり、幼い私は見たことのないクリスマス飾りのデザインにドキドキしたものだった。
思えば昔から、絵を描くことはもちろんのこと、モダニズム建築や、雑貨デザインに興味の強い子供だった。

どうも歳を取ると、(良い意味でありたいが…)恥がなくなってくるらしく、
最近の作品は私にとって、どんどんと幼年期の記憶や想いを思い出すスイッチとなってきている。
変に「頑張ろう!」とか、自分にはない感覚を意図的に無理に表現する必然が私の中で、全くなくなってきた。自分の素直な感覚を出せるようになってきた。

この感覚が鑑賞者にとってどうだかはわからないが、制作者の私にとっては、多分に心地良かったりする。

そんな新作。

2018-05-04

個展の新作について

図A 「戦後53年日経平均月足チャート (等差チャート)」2017年 (最終閲覧日:2018年5月4日)
http://www.kabuchart.com/index.php?戦後53年日経平均チャート


このバブルの最高潮にまで駆け上がる1950年からの日経平均株価(図A)を眺めていると、私には出来高のビル群の上を舞うメカ龍に見えてくる。

ここ何年か後学のため、自分なりに小遣いで株を始めてみたり、財務や経営、経済の本を素人なりに読んでみた。

知れば知るほど、考えれば考えるほど、この資本主義というものは、不思議なシステムだ。

資本家の投資が始まった時点で、拡大成長は必須のものとなり、貨幣で取引できるものを人々は探すようになる。
現状を超えるよう常に求められる。

まずは物を生産し、合理化し、廃棄を前提に大量生産するようになる。
大量生産により必要以上に生産された生産物の廃棄も、いつしか市場に組み込まれていく。
物をやり取りしていた貨幣が、サービスをやり取りするようになり、いつしかイメージや情報そのものをやり取りすることになった。
市場は常に拡大する道を探し、破壊を繰り返す。

多くの人を幸せにするはずの社会システム。
合理化と拡大成長が必須の未来に、人間はいるのだろうか?
矛盾を表現するメカ龍に、これ以上のモチーフはないと私は思う。

私は今、
大阪万博のあった1970年から、日経平均株価がバブル期最高潮に達する1989年までのチャートの形を元に、昇りメカ龍を描いている。
出来高を模したビル群では、その年に建った建物がメルクマールだ。

この作品から、未来の営みを考え続けてみたい。